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「弱き者の生き方」 (大塚初重・五木寛之)

1_2以前から五木寛之さんは、終戦直後の混乱期の極限状態での体験を語れずに封印していると話していた。
それは彼の心に重くのしかかりご自身を「病めるもの」「悪人」としてうしろめたい思いを隠してきたと述べている。

この「弱き者の生き方 」は五木さんと大塚さんの対談をまとめた一冊。(rtfはちょうど一年前の07年8月に読書予定としていました!)

その対談が実現したのは、五木さんが大塚初重さん(考古学者)のNHKラジオでの二日間にわたる戦争体験談を偶然聞いたことから始まった。
大塚さんは、アメリカ潜水艦に撃沈された船が沈む際に、船中から脱出しようとした大塚さんの脚にすがる人を、燃える船底へ蹴落として助かったのだった。

その大塚さんの18才の体験と当時12才だった五木さんの罪悪感あふれる平壌からの引き揚げ体験に共鳴するところがあったのだ。

この対談の中で、五木さんはついに封印を解いて記憶を辿り切々と話し始める。それは生地獄ともいえる恐ろしいものであった。終戦の8月15日が過ぎ去っても、平壌では戦争は終わらない。9月15日ソ連軍が進攻してくる。高級将校や幹部などはすでに地を離れて南下。残された日本人たちはソ連軍の蹂躙にさらされる。

そのつらい体験を打ち明ける五木さんと、そのような重い話でも自由で爽やかな雰囲気をくずさない大塚先生。 五木さんの心の重石がとれた瞬間だった。

面授という直接に向き合い、目と目を見つめながら肉声で教えを受けること、五木さんはこの対談を面授としまた人間と人間の魂のふれあいと表現している。

「弱きものの生き方」という応援歌とも言える先輩からの提言だが、世に多く見られる「前向きに」とか「ポジティブに」といった視点は一切無い。「究極のマイナス思考から出発せよ」と言い切る。勇気を持って自分の現実を直視することが大切と説く。

このような重い内容なのだが、お二人の心底持たれているエスプリやユーモアのおかげで読了感はとても爽やかなのである。二人とも頭だけではなく体や知恵、時には悪知恵も駆使して力強く生き抜いてきた経験に裏打ちされた納得性が読む者の心を打つと思う。

五木さんは「おとな二人の午後」という本で塩野七生さんとも対談していますが、本当にお話が面白く知的な楽しさにあふれている。

是非多くの人に読んでもらいたい一冊である。

PS. 五木さんは「おとな二人の午後」という本で塩野七生さんとも対談していますが、幅広い話題で知的な楽しさにあふれている。こちらもお勧めの一冊である。

 

【目次】

第1章 弱き者、汝の名は人間なり(人は弱し、されど強し/虎屋の羊羹、銀座のネオンで殴られる/ジェノサイド(集団殺戮)そのものの東京大空襲/生き地 獄―戦友を蹴落として生き延びる/悪を抱えて生きること/語りえなかった引き揚げの真実)/

第2章 善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや(極限状態 で交錯する善と悪/二度目の撃沈と敗戦/涙の漫才修行―人生に無駄はない/日本の植民地支配の爪あと/語られない引揚者の悲劇―残留孤児と不法妊娠/右へ 左へ揺さぶられ続けるのが人生)/

第3章 心の貧しさと、ほんとうの豊かさ(肉親の死を身近に感じる大切さ/お金という魔物/学内闘争でつるし上げられる /わが青春の登呂遺跡発掘/人は泣きながら生まれ、時に優しさに出あう/経済的貧困と貧しさとの違い/金では買えない「誇り」を抱いて)/

第4章 人身受 け難し、いますでに受く(人生の峠道でたたずむ/人間性と謙虚さ―前田青邨先生の教え/斜陽館での一夜―師匠と弟子の『人生劇場』/赤線とドジョウすくい /想像力の欠如と「心の教育」/人間として生まれた奇跡と幸運/なぜ人を殺してはいけないのか)/

第5章 人間は、ひとくきの葦である(「負け組」などい ない/辛いことも直視する勇気をもちたい/時には黙ってただ寄り添うことも大事/潔癖すぎる現代社会/だれにでもある不安やコンプレックス/弱き者たちへ ―人は皆、それぞれの生を生きる)

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コメント

はじめまして。

五木さんの書評ブログを運営している者です。『弱き者の生き方』は、五木さん関連本の中でも私は五つ星と評価するほど、戦争体験を率直に語ったすごい本だと思います。この終戦記念日のあたりで読むには本当にふさわしい本でもあります。

「おとな二人の午後」もおもしろい本ですね。塩野さんの新しい一面が見えたと思います。

京都の古本まつりにも行かれたのですね。私はかつて京都に住んでいたので、お世話になりました。またいつか行きたいなと思います。

それでは、またおうかがいさせていただきます。

投稿: ほめ屋 | 2008年8月16日 (土) 19時41分

ほめ屋さん、

当ブログをご訪問いただきましてありがとうございます。

ほめ屋さんのここのブログは、五木さんを深く分析していて参考になりますね。ありがとうございます。

投稿: rtf | 2008年8月17日 (日) 16時59分

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