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「東京島」 by 桐野夏生



まずはっきり言えるのは、自分の生誕した経緯・血筋を自身で完全に正確に掌握できている人間はこの世の中に誰もいないということです。生まれてから物心がつくまでは記憶がまったく無いはずですから、両親はじめ地元の近所の人たちの信頼できると考える証言を含め戸籍謄本などの公的な情報をもとに、伝え聞いたことや記録を正しいものと考えるしか手立てはありません。そして、親に顔や性格が似ているという実感から確信の度合いを深めていきますが。

この物語、あらすじですが『32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か?いつか脱出できるのか―。食欲と性欲と感情を剥き出しに、生にすがりつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読者の手を止めさせない傑作長篇』とされています。

無人島に漂着した数十名のなかに、女性はたったひとり。どんな展開になるかはだいたい想像できるとして……ただそれだけに終始しているわけじゃなく、というかそういう特異性からグループが変質していく過程が面白いところ。
後に中国人のグループも漂着し、コミュニティの勢力図を複雑にしていきます。

そのような中たったひとりの女性・清子は「自分はトウキョウ島におけるトキである」「大切にされるのは当然なのだ」と、46歳という年齢にして若い男たちから乞われる実感に酔うなど意外としたたかに成長というかそれが女の本能かもしれないと納得させられ、また男たちは男たちで、ブクロ、ジュク、シブヤなどと名づけた集落を形成して、自分たちの世界をつくりだし生きていきます。

という思考実験のような小説で現代の高度な世界から隔絶された原始生活を強いられた人々の生々しい生き様を描く小説なのですが、読了後に思ったのが最初に書いたふと心によぎった疑問。

つまり清子は子供を宿ることになり、その子は紆余曲折ののち「東京島」から東京にたどり着くのですが、その出生の秘密は完全に塗り替えられてしまうのです。その辺は浦島太郎のような御伽噺みたいにも感じます。
桐野さんの描く独特の世界。 疑問を投げつけ、深い溝に読者を追い込んでいきます。
 

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» 東京島 [どくしょ。るーむ。]
著者:桐野 夏生 出版社:新潮社 感想文: 桐野さんの異色の無人島漂流物語。 極限状態で生きる人々の姿が描かれていますが、想像していたような活力あふれる物語とはちょっと違いました。 登場するのは醜悪で矮小な人々。半端な計算高さで、悪意も憎悪も、なんとなく...... [続きを読む]

受信: 2009年3月 8日 (日) 21時06分

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受信: 2009年3月28日 (土) 13時27分

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