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小川洋子『妖精が舞い下りる夜』

小川洋子さんの小説を断片的に読んでいましたが、今回初めて彼女のエッセイを読んでみました。『妖精が舞い下りる夜』という素敵なタイトル。書きたいと強く願った少女が成長しやがて母になり、芥川賞を受賞した日々を卒直にひたむきに綴り、作家の原点を明らかにしていくという内容。
彼女の文章は繊細で人寄せ付けない強さや曖昧さを排除するような論理性も持ち込んでいます。その強さと静かなる情熱を垣間見るようでした。

レースの模様を決定づけているのは、材料の糸ではなく、糸の通っていない空洞の部分なのだ。つまりわたしは、見えないものを見ていたことになる。

 小説と関わっている時も、同じようなことが起こる。今わたしが心を突き動かされているのは、言葉そのものによってなのだろうか、その向こうに透けている、言葉にできない空間によってなのだろうかと、混乱に陥ることがある。

 小説を書いてゆくうえで、ある一つの言葉を選ぶということは、他の無数の言葉を捨てるということだ。ある一場面のその一瞬を表現するのに、どの言葉を用い、どの言葉を書き記さないでおくか、わたしはいつも選択を迫られている。ある時は無意識に、ある時は苦心して何かを選んでいる。選択の連続によって書く作業が進んでゆく。しょっちゅう、選び方を間違えてはいるのだが。

 選ばれた言葉たちは輪郭を作り出し、切り捨てられた言葉たちは空洞を生み出してゆく。この二つの作用は、レース模様の表と裏のように、優劣なくイコールで結ばれている気がする。空洞だからと言って、形あるものに劣るわけではない。

小川洋子『妖精が舞い下りる夜』角川書店,1993.7,P.15

一つの言葉を選び他の無数の言葉を捨てるという行為、書くという行為を遠い視点で見つめる彼女、その行為を続けるにあたっての拠り所も紹介しています。

愛の生活」という金井美恵子さんの作品は彼女の座右の銘とか。言葉が出てこない時にパラパラっとめくってヒントを得るそうです。
また書き続けていることでいろんな人との素敵な出会いも紹介しています。
シュガータイムという作品を書いた時、すばらしい挿絵をかいていただいた斉藤真一さんという画家さんやそもそもシュガータイムという作品名をつけたもととなった元祖シュガータイムの佐野元春さんとのご対面・お話。

深い思いで書き綴りつつも実はごく一般的な日常生活をしている、そんな断片を紹介する楽しいエッセイ集でした。

[REF] Panasonic Melodious Library by YokoOgawa


 

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