« “出雲のイナズマ”里見香奈が女子高生女流名人! 2人目の10代2冠 | トップページ | Beyond Perfect、日本の美学を貫いた浅田真央の歴史的挑戦 »

「駒の音有情」 内藤國雄 

駒の音有情という内藤國雄九段の著書を読んだ。1992年初版の自分史、昭和29年に奨励会入りし将棋の世界で活躍した氏のたどって来た道は、まさに昭和将棋史とも言える興味深い内容だ。
神戸の薬剤師の家に生まれた内藤國雄は、兄たちが将棋を指しているのを見て覚えたという。終戦当時、父は将棋は良からぬものという先入観があったという。将棋盤を取り上げられないように留守を見計らって遊んでいた。
そろばんの暗算に熱中していたのがいつの間にか詰め将棋にとってかわった。
そして街の大道詰め将棋であらしまくった。「大道将棋あらしの子がいるから注意しろ」と業界に情報が流れたという。
そして伊藤看寿の「将棋図巧」「詰むや詰まざるや」の著書に出会う。そのスケールの大きさ、格調の高さ、芸術性に感動を抑えきれなくなった國雄はその世界にのめりこんでいった。
詰め将棋投稿などを続けていた國雄を後の師匠となる藤内金吾七段が訪ねる。阪田三吉の数少ないお弟子の一人の藤内は、衣類関係の商人だったが趣味が高じて中年でプロになったという異例の棋士だった。
そして当時の関西将棋会館へ、今は立派な建物であるが、当時は辺鄙なところにあって建物も古くみすぼらしかったという。そこで、当時のスター加藤一二三との出会い、奨励会での苦闘、三段地獄を味わう。
苦闘が続いていたその三段リーグ、角田三男七段の「それをなぁ、難しゅう考えすぎるんやからや。それで疲れて、一人でころんでしまうんや。ほかのもんは、そんなに読んでへんで。もうちょっと肩の力をぬいて気楽にやってみい」と言われる。
しかし将棋はあくまでも読みの戦いと力む内藤、しかし対戦の終盤でふと角田の言葉が浮かぶ、(そうや、後がないといっても命までとられるわけではない)、そう思って気楽にやると不思議なことにあっさりと勝ったという。
全力を出し切ろうと力むとかえって力が出なくなる、そう気づいた彼は四段入りを決めたのだ。

晴れてプロ四段となった内藤、稽古将棋も師匠から引継ぎ各界の著名人とも付き合いが増える。小説家の藤澤恒夫さんもその一人だった。のちに棋聖になった内藤に対して「小説内藤國雄」という作品もかいていただいたという。
またよく飲みに誘われた升田幸三さんから"研精不倦覃思惟深" と書かれた色紙をいただいた話、大山康晴名人との盤上・盤外の戦い、さらに自然流中原誠から恐怖心を感じた話(終盤の切迫した局面で穏やかな顔で盤面を見つめていて楽しんでいる)など逸話がなんとも興味深い内容となっている。
谷川浩司との出会いも早かった。この本には彼が内藤たちの若手勉強会で記録係をしている写真が掲載されている。まだ小学生か中学生のようで今の面影はほとんど見当たらないのがすごい。

将棋のかたわら、プロ歌手としても「おゆき」をヒットさせてしまう。「将棋にうつつをぬかさず、もっと歌ってください」と歌のファンから言われた逸話も。そして詰め将棋でも新幹線の中で編み出した実戦初形詰将棋やベンハーの製作。

「伸び伸びしみじみ」、内藤がモットーとする言葉だ。人間は高慢になると伸び伸びだけに偏してしまうし、失敗を恐れるとその逆に偏していじけてしまう。凧を舞う時の伸び伸びは遠心力でしみじみは求心力、そのバランスでうまく舞う。

将棋・酒・演歌、内藤の半生はあでやかな彩で将棋界に異彩を放っている。

|

« “出雲のイナズマ”里見香奈が女子高生女流名人! 2人目の10代2冠 | トップページ | Beyond Perfect、日本の美学を貫いた浅田真央の歴史的挑戦 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/196957/47546688

この記事へのトラックバック一覧です: 「駒の音有情」 内藤國雄 :

» 将棋以外に打ち込んだものはないから他にPRの手段もない - 将棋・チェス@2ch掲示板 [したらば掲示板限定シリーズ三部作雑記]
したらば掲示板限定シリーズ三部作雑記:将棋が強くても何の意味もない件 - 将棋・チェス@2ch掲示板 - livedoor Blog(ブログ) 将棋が強いことの意味。 正直一部のトッププロのように観賞に堪える棋譜を生み出せる 人以外は意味ないといえばないな。 俺はそれを観賞して...... [続きを読む]

受信: 2010年3月20日 (土) 22時59分

« “出雲のイナズマ”里見香奈が女子高生女流名人! 2人目の10代2冠 | トップページ | Beyond Perfect、日本の美学を貫いた浅田真央の歴史的挑戦 »